ルプー 不思議な世界

ルプー 不思議な世界
「シューベルト: ピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D959」
をyoutubeでいろいろなピアニスト(ソコロフ、リヒテル、アラウ、ペライア、ケンプ…)で聴いたのですが、どうしてもぴんときませんでした。
アタマにもココロにも響かず、あぁ、やっぱり私は耳がだめなのかもと、どんよりとした気持ちになっていました。

ところが、Christian Zachariasに出会ってしまいました。
あまりよく知らないピアニストなのですが、どきどきするくらい素敵。
ピアニストでこんなにも曲の感じが変わるのですねえ。

さて、ルプーですが、実は、以前からまわりでは絶賛されていましたが、正直あまり気乗りがしませんでした。
今回の演目がいまいち私の好みじゃないように(勝手に)思っていたせいもあります。
でも先ほどの動画を何回か聴いて、ルプーならどんな演奏をするのだろうか、と思いながら演奏会にのぞみました。

ルプーは「からくり人形」がするする…とでてくるような感じで(ごめんなさいごめんなさい)登場してきました。
そして、ピアノにつかまってよろよろと椅子に腰かけます。
(椅子も、わざわざ背もたれつきの事務椅子!)
ところが、ピアノを弾きはじめると、美しい深い音を奏でるという…
弾き終わると、また、からくり人形のようにするすると舞台袖にはいっていきました。(笑)

ルプーの演奏は、なんというか独特の世界というか、不思議な気持ちがしました。
演奏を聴きに行ったはずなのに、教祖様(ルプー)にまるで帰依させられてしまったかのような感じがしました。
「すごく感動した!」という感動ではなく、じんわりと心に沁みて満ち足りた気持ちになっていました。
なんなんだろう?あの感覚は。
木漏れ日のさす森の中で、仙人がピアノを弾いているようにも思えました。
年齢を重ねたからできるわざなのか…、
ルプーだからなのか…、深い音でした。

全然関係ないけれど、「剣客商売」の秋山小兵衛とだぶりました。
ひょうひょうとした小柄の老人の秋山小兵衛は、汗もかかず、ひょいと体を動かすだけ(にみえる)だが、相手は「なにがなにやら訳がわからぬまま」倒されている、という。

きっと、私は「わけのわからぬまま、ルプーの世界に連れられていった人」なんでしょう。
でも、とても心地よかったです。

若きピアニストたちが、ルプーの年代になるころ、いったいどんな演奏を聴かせてくれるのか。
それもまた、妄想してしまうのでした。